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父の詫び状

 今日のNHKアーカアイブスは1986年放映のドラマ「父の詫び状」を取り上げた。
このドラマは向田邦子の原作を約一時間半の単発ドラマに仕立てたもので、
NHKの向田ドラマではお馴染みの杉浦直樹、吉村実子が夫婦を演じた。

 私はドラマの前半部分は、掃除をしながら見たので落ち着いて見れなかった。
後半の、長男の友人が登場するあたりからは落ち着いて見ることが出来た。
86年の放映当時は見たかどうか定かでないが、見覚えのある場面もあった。

 向田ドラマといえば、だいたい昭和十年代の前半から半ばの東京が舞台である。
「父の詫び状」は昭和十五(1940)年三月から翌春までの出来事を描いていた。
 随所に戦前の風俗を織り込み、時代考証も行き届いていたとは思うが、
一つだけ気になったのは、冒頭の女学校での徒競争のシーン。
グラウンドの背後に、今風の鉄筋校舎が見えたのはいただけなかった。

※戦前にも鉄筋校舎がある学校は存在したようだが、
徒競争のシーンで映ったのは明らかに現代風の校舎だった。
今なら画像処理を施して、古い校舎に見せることも可能だろうか。

 「父の詫び状」は、杉浦氏が演じる田向征一郎の長女、恭子から見た
田向(たむかい)家の日常と、家の内外で起こる出来事を綴っている。
 恭子の独白がナレーションという形で随所に挟まれ、彩りを添えている。
ちなみに恭子を演じたのは長谷川真弓、ナレーションは岸本加世子。
岸本氏は「あ・うん」で主人公水田仙吉の娘役を演じていた。

 「あ・うん」といえば、杉浦氏は仙吉の親友、門倉の役で出演していた。
仙吉を演じたのはフランキー堺で、妻たみを吉村氏が演じていた。
杉浦氏は舞台版「あ・うん」でも門倉を演じた(仙吉は愛川欽也)。
 「あ・うん」は東宝で映画化されたが、こちらは仙吉を板東英二が演じ、
たみは富司純子、娘は富田靖子、そして門倉は高倉健だった。

 話を戻す。戦前は家庭の中で「父親(世帯主)」は一種の特権階級だった。
父親は「家長」として世帯の全責任を負う代わりに、権力があった。
「父の詫び状」にも、その家長としての父親の姿が随所に登場する。

 一家の食事は、家族全員が居間でちゃぶ台を囲んで一斉に食べるが、
父親が「いただきます」と声を出すまでは、誰も箸を付けてはならない。
それは家の外でも同じである。ハイキングの昼食も父の一声で始まった。

 父親は子どもたちを事あるごとに叱った。鉄拳制裁も辞さなかった。
恭子が女学校の帰りに、町内の相撲大会を見学しているところを
父が見つけ、家に連れて帰るなり「男の裸を見るとは」と往復ビンタ。
止めに入った妻に対しても「躾がなっていない」と手を上げたのである。

 子どもたちはそれでも父親を敬い、父親に対しては敬語を使っていた。
今時のガキみたく「うるせえクソ親父」「ざけんじゃねえよ」などと
子どもが親に対し乱暴な言葉を使うことなど、考えもつかない時代だった。
 いや、当時も中には親に面と向かって反抗する子どももいたかもしれないが、
少なくとも向田ワールドの中では、そのような場面は有り得なかった。

 妻もまた夫には従順であった。しかし時には意見をぶつける時もあった。
ある時、征一郎が社員と芸者を連れて家で飲み直した後には流石に
「子どもたちに示しが付かない」と、妻は征一郎に苦言を呈した。
 征一郎はしかし「文句あるか」「やきもちを焼いているのか」と取り合わず、
妻を怒鳴り散らした挙句にそのまま寝てしまうという醜態を演じた。

 それでも征一郎は家長であり、子どもたちに対しては甘い顔は見せなかった。
夏のある日、恭子たちが海水浴に出かけた際、恭子の妹が海水浴場で
ズローズを盗まれてしまい、ノーズロのままで帰宅したことがあった。
 父親は「これからはズローズを履いたまま泳げ」と真顔で叱りつけたが、
母も子どもたちも吹き出した。父もわざわざ便所に行って一人笑ったのである。

 ドラマには、便所の入り口までの廊下も重要な舞台として度々登場した。
恭子は夜中に便所(ナレーションでは御不浄と呼んでいた)に行くのが
気が進まなかったが、母が居間で夜遅くまで子どもたちの鉛筆を削っており、
その音と母の姿を障子戸越しに確かめると、安心して便所に行くのだった。
便所入り口の軒先には手水鉢が下がっていた。戦前のありふれた光景だ。

 田向家には征一郎の母親も同居していたが、彼女は昭和十六年三月に他界する。
通夜には征一郎の会社の社長も訪れ、征一郎は終始恐縮していた。
 恭子は、家族には一度も頭を下げたことのない父親が社長に平身低頭する姿を見て、
情けないと思いつつも、父がそうして家族を守ってきたことを理解する。
そして彼女は、今までの父の言動を全て許そうという気持ちになったのである。

 征一郎は母の実家へ納骨に行き、その旅先から東京の家族に葉書を出す。
葉書の最後には、今まで働いてくれて御苦労だった、と労いの言葉があった。
恭子にはそれが、父から家族への詫び状のように思えたのであった。

 父は戦後、六十四歳でこの世を去った、とナレーションは結んでいた。
父は死の直前まで、家族に甘い顔は見せなかったのだろうか。

 少なくとも終戦直後までは、父は絶対的な存在であり、威厳を備えていた。
父の下着や靴下を他の家族とは別に洗う、ということもなかった。
もし今、征一郎や向田氏が生きていたら、今の世の中を見て嘆く事だろう。

 ところでドラマ終了後、ゲストの吉村実子氏が
桜井アナと思い出話に花を咲かせていたが、
その思い出話が佳境にさしかかったときに
福島県沖での地震発生の速報が入り、
画面はニューススタジオに切り替わったのである。

 横尾アナは津波注意報が宮城、福島両県に出されたことを伝え、
同時に中継画像を流し、そのまま正午のニュースに突入した。
 
 吉村氏の思い出話は、後日あらためて放映してほしいものである。
「あ・うん」収録時に、彼女が夫の蒲団の縁を踏んでしまい、
それを見た向田氏が彼女に声をかける、という場面で打ち切られた。

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 埼玉県川口市で製薬会社勤務の男性会社員(46)が殺害され、中学3年の長女(15)が逮捕された事件は26日で1週間。県警は、長女の学業面の悩みが真相解明のカギとみているが、捜査幹部は「(核心に触れる)供述は一切ない」と明かす。動機を探る慎重な捜査が続きそうだ。...

1件のコメント

[C201] どうしてくれんのよ!

私は「あ・うん」の大ファンです。あ・うんや父の詫び状の立役者だった吉村実子さんは一体どうしているんだろう。と思っていたところに、先日の放送があり大喜びしました。
 ところが無情にも、地震が。私はは震源地に近い場所に住んでいるのですが、そんなことより吉村さんのトークどうしてくれんのよ!と怒。あんな形でぶち切られた番組、吉村さんにたいへん失礼だと思いました。
 。。。にしてもはつらつとお変わりない姿に感動しました。あ・うんは不滅です!!
  • 2008-07-21
  • にゃんこ3
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